梅(ウメ)、馬(ウマ)は中国語に由来するという説

一般には和語、つまり日本語固有の語彙として理解されている「梅(ウメ)」や「馬(ウマ)」が実は中国語に由来するという言説は聞いたことあるでしょうか?

そこそこインパクトのある言説なので自分は初めて聞いたときはびっくりしたような気がします。

これについて、現代北京官話(≒標準中国語)の「馬(马)」mǎ や「梅」méiとの意味と形式(音形)の並行性はすでチェンバレン(東京帝国大学のいわゆるお雇い外国人)に指摘されていたようです。ただ、漢字の音読みと訓読みに似通うものがあることの指摘を含めれば、もっと古くからあった話題だとは思います。

学問的に検討したものとしてはこれから扱うカールグレンと亀井孝の著作がよく知られているようです。すなわち、カールグレンによって提示された中国語に由来するとされる和語の群に対して、亀井孝がそのほとんどを論駁した上で、「梅」「馬」はそれなりに可能性があるとしました。

1926年の本に30年弱後に亀井孝が唐突に言及している経緯は普通に謎なんですが、カールグレンも亀井孝も著名な言語学者ですし、河野六郎(これも著名)が書評を書いたりしてるのでこれが当時それなり反響があって中国語起源説が定着したのではないでしょうか?

なお、前提として梅は中国原産であって奈良時代以前に渡来したとされているようです。馬については大陸から分化したのちの日本では一度絶滅していて、古墳時代ごろから朝鮮半島から馬が輸入されたらしいです。なので「梅(ウメ)」「馬(ウマ)」以前に呼称がなかったとしても問題はないでしょう。

さて、巷ではこれがほぼ定説になっているようなんですが、これは実際どういう根拠に基づいていてどれくらい信憑性のある説なんでしょうか?語源説は得てしてたくさんあるのでその中でこの説を取るのであればその辺りは把握して然るべきだと思います。

というわけで、ここでは「梅(ウメ)」「馬(ウマ)」は中国語に由来するという説について整理ないし検討を行ってみようと思います。長いのでめんどくさかったら結論に飛ぶことをお勧めします。

Karlgren(1926)

まず、よく知られているKarlgren(1926)とKamei(1954)を見ていく。初めにKarlgren(1926)の該当部を確認する。再度述べておくと、Karlgren(1926)では日本語で和語とされている語彙に漢語以前の中国語からの借用語があるとしていて、実際にそれとおぼわしき語例を列挙している。以下、「梅」「馬」の記述を確認する。

古代中国語(方言)説

再掲しておくと以下のような対応がある。(声調は省略)

「梅」日本語 ume 北京官話 mei(< *muâi)

Karlgren(1926)は基本的に現代北京官話の祖先である隋唐時代の中古中国語の音、いわゆる中古音からの説明を考えている。アスタリスク付きの単語は推定形を指す。

まず、日本語 umeのeについて、中古音の*muâiから直接には導けないとして、九州に面す地域の紀元後数世紀ごろの方言(?)音の*mueが借用されたものであるだろうとしている。

これについて、僕は特に方言音を持ち出さなくても良いのではないかと思う。「梅」は明母合口灰韻蟹摂であり、確かに同じ反切(≒音形)の「玫」などは日本漢字音でマイ(呉音)であるらしい。ただし、仮に呉音層より古い層で上代を経由したならai > e₂が起きたはずで、実際上代(≒奈良時代)で在証されるのはume₂であるのだから、*muâiを借用したとして*uâi > ai > e₂( > e)となり問題は生じないと思われる。

問題は日本語 umeのu-である。Karlgren(1926)は古代中国語(?)のm-がmʷa, mʷueのように強い円唇性(protruded lips)をともなっており、その反映なのではないかとしている。

ここでいう「古代中国語」が隋唐の中古音を指すのか、さらに遡る秦漢の上古音を指すのかはいまいちはっきりしないが、いずれにせよそれを裏付ける根拠はない印象だ(詳しい人なら知っているかも?)。単にその場しのぎの説明をしているように見える。

仮に円唇性を認めるとして何より開拗音などを考えれば、語頭に円唇性を反映するのは支持し難い。(「火」xua > クヮ > カ など)

古代中国語説2

「馬」日本語 uma 北京官話 ma (< *ma)

日本語 umaのaについては特に問題がないのもあって言及がない。u-については「梅」とともに論じているので上述の通りである。


さて、ここまで見てきたが、Karlgren(1926)はKamei(1954)で批判されるように他の語については対応が雑なものもあるのだが、「馬」「梅」については一応一通りの説明は与えているようだ。

ただし、日本語 umaのu-について単に「古代中国音」の強い円唇性(protruded lips)の反映とするのはそもそもそれが本当にあったのかということも含めて、説明の不足に思う。

ここで賢明な読者は察するところであると思うが「梅(ウメ)」や「馬(ウマ)」を中国語に起源を求める説の鬼門は語頭のu-の由来をいかに説明するかなのである。語頭のu-の説明の妥当性がすなわち中国語起源説の妥当性だと言ってもいい。そのことを念頭にKamei(1954)を確認してみよう。

Kamei(1954)

Kamei(1954)はKarlgren(1926)への反論として書かれていて、Karlgren(1926)の挙げた22語中をそれぞれ検討してうち18例は中国語からの借用だとは考えにくいとしている。一方でKamei(1954)は「郡(クニ)」「絹(キヌ)」「梅(ウメ)」「馬(ウマ)」の4語については借用の可能性を認める。

ここでは「郡(クニ)」「絹(キヌ)」については置いておき、「梅(ウメ)」「馬(ウマ)」のみを見ていく。

「烏梅」説

「梅」日本語 ume 北京官話 mei

Kamei(1954)はこの対応については妥当性があるとしている。そして、日本語 umeは「烏梅(ウバイ)」に由来するだろうとしている。

「烏梅(ウバイ)」というのは薬用に半熟の梅の実を干して煙で黒くいぶしたものであるらしい。別にKamei(1954)が思いついたものではなく、どうやら『大言海』を参照したらしい。

その存在についてだが、国内では万葉集にすでに「烏梅」の表記がある。一方中国で「烏梅」が使われていたのかについてはchatGPTにお願いして確認してみたところ、『神農本草経』(1c末〜2c初)に「乌梅」という名称が登場し、「傷寒や熱病のときに梅を用いる」という薬効説明が見られる、という説明が返ってきたのでひとまず問題ないということにしておこう、、、。

さて、Kamei(1954)によれば、薬用としての名前が(おそらくは換喩的に)木の名前に転用されるのはよくあるという。確かに「杏子(アンズ < カラモモ)」「山椒(サンショウ < ハジカミ)」あたりがその例に該当しそうである。

「烏梅」中古中国語 *ʔuomuâi (≒ウォムァィ) > 日本語 *umai > *ume₂ > ume

とここまで見る限り、「烏梅」説はそれなりに筋が通っているように感じる。(カールグレンの再建による)中古音を考えてみるなら「烏梅」は*ʔuomuâi (≒ウォムァィ)のようになり、そこから日本に*umaiで借用されたとして、そこから umeになるのは上述のように特に矛盾を生じない。

中間形式媒介説

「馬」日本語 uma 北京官話 ma

「馬」については新井白石やKarlgren(1926)の批判を行うが、代わりの説明としてはあまり十分なものを与えていない。

まず、新井白石の「東雅」における「胡馬」説については、かつて日本では百済からもたらされた馬をウマと呼び、固有の馬をコマ(小さい馬)と呼んでいたのであり、そしてそれは「胡馬」がコマともウマ(cf.「胡乱(ウロン)」)とも読むことができるから、というものらしい。

これについて、Kamei(1954)は平安初期には「胡麻」は一般にウゴマであったことからして「胡馬」もウゴマだろうし、おそらく新井白石が漢音と唐音の関係から想定しているコマ > ウマのような変化が過去にも起きたとするには根拠が乏しいと批判しており、Kamei(1954)自身は「馬」 maの方を支持しているようである。

一方でKarlgren(1926)にも日本語 umaのu-を古代中国語のmのprotruded lipsに求めるアドホックさについて循環論法だと否定的である。

その上で、Kamei(1954)は考古学的に馬の存在は古墳時代終わりの5cには遡るだろうこと、経路についてはおそらく騎馬として朝鮮を経由しただろうということと合わせて、起源は中国語にあるにしても直接借用されたのではなく(おそらくは朝鮮の)中間形式を経由しただろうとしている。ただし、朝鮮の古語の痕跡は失われているとして、実質的には説明は放棄している。


さて、Kamei(1954)を見てきたが、「梅」については「烏梅」に由来するというのは十分可能性が認められる語源説だろう。一方で「馬」についてはKamei(1954)も濁している印象が否めない。

恐らく一般に認識されている中国語語源説は以上のKarlgren(1926)とKamei(1954)が元になっていると思うが、「馬」についてはあまりはっきりした語源説がないのである。それにもかかわらずなぜ、「梅」とともに「馬」が中国語起源だと喧伝されるのだろうか。

それは恐らく、後述するように類似した形式が大陸の系統関係が(証明されてい)ない複数の言語で見つかり、その分布の広さも騎馬民族の存在によって説明ができるからだろう。

その点も含め、Karlgren(1926)とKamei(1954)を部分的に引き継ぐような研究がある。これを見ていくとしよう。

Miyake(1997)

Miyake(1997)は歴史言語学の観点から、当該言語において固有語とされている中国語からの借用語を日本語、そして韓国語について検証している。語例のうち、借用の可能性の大きさに基づきいくつかのグループに分けており、「梅」「馬」についても借用の可能性をある程度認めている。

上古中国語 *humay説

「烏梅」説は有力なのだが、一応「梅」についても確認しよう。以下が対応である。上代≒奈良時代、中古≒隋唐代、上古≒秦漢代である。

「梅」
上代日本語 ume₂ (韓国語はなし)
中古中国語 *may 上古中国語 *hmay

この対応は「音韻対応は不完全であるが、中国語からの借用語と考えている」グループに分類されている。

Miyake(1997)は上代日本語 ume₂についてe₂は中古中国語 *mayの*ay[aj]~[ɘj]に対応する上代以前の日本語の*ai or *oiに由来するだろうとしている。

上で述べたように*aiについてはai > e₂を被るため問題は生じないと思われる。 *oiについては何かしらの短母音を生じるとは思うがそれが*e₂である根拠は僕には説明できない。ひとまずここでは*aiということで話を進めることを断っておく。

一方でやはり上代日本語 ume₂のu-はやや問題であるとして、上古中国語の無声鼻音*hmに対応させた*humaiのような借用形式を想定している。

中国語 *hmay > 日本語 *humai > *umai > ume₂ > ume

ここで述べておきたいのはこの上古音の推定は自明ではないということだ。そもそも中古音に比して上古音の推定はまだ定説がなく、現在進行形で再建(≒推定)が進められている。有名なのはBaxter(1992)であるが他にもいくつかの再建パターンがある。

Miyake(1997)に使われている上古音はBaxter(1992)をベースに彼自身が再建を行なったものであるらしいが、それはまだ公開されていない(!????)。そのため、はっきりしない部分があるのだが、Miyake(1997)の記述を元に読み解いてみることにする。

まず、上古音に無声鼻音*hmを再建すること自体はおよそ一定の同意が得られていると言っていい。これは典型的には鼻音と軟口蓋ないし喉頭摩擦音が諧声の関係にあるからだ。これは形声ともいい、こちらの方が字義はともかく直感的には理解がしやすいと思われる。

例えば「語」のようなものが形声文字である。「語(*ŋuo > ゴ)」は「吾*(ŋjwo > ゴ)」に部首「言(*ŋjɐn > ゲン )」 が付されたものである(括弧内は中古音 > 日本漢字音)。このように、一般的に形声文字の起源は音を借用した文字(音符)に部首(ないし意符)が追加されることで作られる。

そして、同じ音符を持つ漢字群は諧声系列と呼ばれ、上古音では音的に類似していたことが示唆される。(ただし、正確にはそれらが同時代であるかなど慎重な扱いが求められる場面もある。)

よってもし仮に音が類似しない二種の中古音A、Bが諧声の関係をなすのであれば、A、Bは上古音においては例えばA、A’のように類似した音形であると予測がつく。ここにおいて中古音Bより遡る上古音A’が再建できる。

さて、上では上古音に無声鼻音*hmを再建することの根拠として、鼻音と軟口蓋摩擦音が諧声の関係にあるからだと述べた。Miyake(1997)では「梅」*mayと「海」*hayqが挙げられている。

「梅」*m- 「海」 *h-(< *hm-)

このような中古音の語頭子音の対応について、諧声の整合性を取るためにはBaxter(1992)含め通常は摩擦音がかつて無声鼻音だったと考え*hm( > *h)を再建する。つまり「梅」については上古音においても*mであり、*m-と*hm-の諧声の関係を考えていることになる。

「梅」*m-(< *hm-?) 「海」 *h-

一方でMiyake(1997)は逆に鼻音側に*hm( > *m)を再建し、上古中国語の「梅」*hmayが日本語に借用されて*humai > umeのようになったという過程を考えているらしい。ここで想定されるの諧声の関係は*hm-と*h-である。

僕はMiyake(1997)の「梅」*hmayには非常に疑問だ。確かに諧声をなす中古音のA、Bに対してはA、A’だけではなくB’、Bのような上古音を再建することもできる。なので記号操作的にはMiyake(1997)の*hm-と*h-のような上古音を想定することもできるし、音変化として著しく不自然というわけでもない。

しかしながら諧声としてみたときにせいぜい無声音であることぐらいしか音の類似が見出せないだろう。Baxter(1992)の*m-と*hm-は調音位置と鼻音性を共有するため、明らかにこちらの方が望ましい。

分かりやすく言うなら、ともに清音の「サ」と「カ」より、ともに唇で鼻音を発音する「マ」と「(息っぽい?)マ」の方が似ているだろう。

よって、上古中国語 *humayに日本語 umeの起源を求めるのはあまり信憑性があるとは思われないし、「烏梅」説が有力である以上、この説をあえて採用する必要もない。

アルタイ系 *mVrVn説

「馬」については以下をMiyake(1997)は検討している。中期朝鮮語は朝鮮王朝期(15C~)の朝鮮語を指す。なお、中古音が前掲の*maではないのはMiyake(1997)はEarly Middle Chineseを扱っているのを簡便のために中古中国語と表記していることによる。

「馬」
上代日本語 uma 中期朝鮮語 mol
中古中国語 *mraaq 上代中国語 *mraq

この対応は「音韻対応は不完全であり、おそらく同源に遡るが、中国語からの借用語ではないかもしれない」グループに分類されている。

同様に「馬」を表すチベット・ビルマ祖語 *s-rang~*m-rangやタイ語 máa、モンゴル語 morinの類似性から特に、騎馬系民族のアルタイ系言語から中国語へ借用されたことを考えている。

Miyake(1997)は*mVrVnという形式(Vは未指定の母音)を起源に仮定し、どのようにしてその各言語の形式に至ったかを論じていて、詳細は省くが以下のようにまとめられる。

  • *mVrVn(以下適宜省略している)
    • 中国チベット語族 *mVrVng(ngは不明)
      • チベット・ビルマ祖語 *s-mrang? > *m-rang~*s-rang
        • 上古中国語(案1) *smraq ~*hmraq?
          • 朝鮮半島言語(?) *huma?
            • 日本語 uma
          • タイ語祖語(案1) *mraq > máa
    • モンゴル語 morin
    • アルタイ系言語 *mVrV
      • 中期朝鮮語 mol
      • 上古中国語(案2) *mraq
        • タイ語祖語(案2) *mraq > máa

Miyake(1997)はチベット・ビルマ祖語の*m-rang~*s-rangが *s-mrangのような形式に由来すると考えているようであり、そこからの類推から系統関係を仮定できる上古中国語も*smraqないし*hmraqだったのではないかと話を進め、日本語 umaは朝鮮半島の言語に上古中国語から借用された*humaなどがあって、それに由来するのではないかとしている。

ただし、タイ祖語は*hmと*mの区別があったにも関わらず、 「馬」 に*hm-が再建されないことから、上古中国語 *hmraqは辻褄が合わず、また、(先)上代語や日韓祖語にも*hは再建されないことからも*humaを想定しにくいことをMiyake(1997)は述べ、結局、日本語 umaのu-については謎が残るとしている。

ここでいくつか付言しておこう。

まず、上古音においては純粋に上古中国語内部の根拠からは「梅」と同様の議論によって「馬」は*hmではなく*m-が再建される。

また、チベット・ビルマ祖語の*m-rang~*s-rangが*s-mrangのような形式に由来するというのは留保が必要だろう。これらの*m-や*s-は動物(や身体部位)を表す名詞に頻繁にみられる語頭子音で、動物接頭辞(animal prefix)と呼ばれるものであり、それぞれ「人間」*mi(y)、「肉、動物」*syaに由来するとも言われる。

「馬」書記ビルマ語 mraŋ チェパン語(Chepang) səraŋ

これは通常、上のように翻訳借用のような対応(動物接頭辞+語根)を示しており、各言語においてそれぞれ別の動物接辞が使用されていると考えられている。*s- ~ *m-の交替を説明するために動物接頭辞を二重に使う*s-m-を仮定するのは必然性に欠ける。接頭辞の交替あるいは翻訳借用で十分に思われる。

あるいは、Miyake(1997)がチベット・ビルマ祖語の再建として引用しているBenedict(1972)が ジンポー語(Jingpho)のgùm-rà(ŋ)について*k-m-raŋという二重の動物接頭辞が付加された形式として解釈したことによるのかもしれない。だが、これはMatisoff(2003)によって音韻的なかさまし(dimidiation)に過ぎないとの反論もある。

騎馬民族言語 *mVrVn?? > シナ・チベット系言語 *s(V)-mrang??(≒スムラン??) > *h(V)ma?? > 日本語 uma

ただし、そうした問題を黙認するのならば、シナ・チベット系の言語に*sm-のような二重の動物接頭辞による子音連続か、より祖形ないし音韻的なかさましによる*sVm-を考え、*s(V) > *h(V) > uのような非口腔音化を考えれば、辻褄を合わせられないこともない。

他に有力な語源説がない以上、大陸の諸言語の「馬」の形式の関連を説明している点で*mVrVn説は一つの語源説として一定の価値はあると個人的には思う。

結論

ひとまず、この記事での結論を出そうと思う。

まず前提として、「馬(ウマ)」「梅(ウメ)」が実は中国語に由来するというのはそこまで強い根拠に基づいているわけではない。意味と形式に関連性が見出せるものの、それが偶然である可能性を否定するものではないし、特に「馬」は十分合理的な説明が与えられるとは言えない。

その上で、ひとまずの語源を求めるとすれば、以下が穏当だろうか。

「烏梅」中古中国語 *ʔuomuâi (≒ウォムァィ?) > 日本語 *umai > *ume₂ > ume

「梅」は「鳥梅(*ʔuomuâi ≒ウォムァィ?)」を介して中国音に由来するのと考えるのが無難だろう。

騎馬民族言語 *mVrVn?? > シナ・チベット系言語 *s(V)-mrang??(≒スムラン??) > *h(V)ma?? > 日本語 uma

「馬」はアルタイ系ないしユーラシア地域で共有された語彙に(少なくとも語根の一部は)由来する可能性がある。特に「馬」表す語根にシナチベット系言語で(?) 動物接辞を付加した形式 *s(V)-mrang ≒ スムラン?? に由来するかもしれない。ただしこれは暫定的な仮説に過ぎない。

なお、今回は論じなかったが特に中古中国語 *maを借用した日本語の問題としてumaが生じた可能性ももちろんあるし、巷ではそのような説明をされることもある。ただし、仮にそうであったとしてもそれは上代以前の特質であると考えられ、上代以降の日本語の現象からはその傍証が見出せない以上は語源説としては検証の可能性に乏しいと思われる。


と、いう感じでした。

、、。

長い!!!!!!!10,000字超えてるんですが!!!!

一ヶ月くらい前から何か記事を書こうと思って色々テーマは考えていたんですが、やっぱり短過ぎてもツイートで足りてしまうし、長過ぎても労力や読む負担的にあんまり良くないな〜とか、自分の今やってることど真ん中はちょっと公開したくないなぁとか思い、意外といい感じのテーマを探すのに苦労しました。

一応この記事の他にもいくつか草案はあったのですが、結論がいまいちパッとしない感じがしたので記事には起こすのを留保しているものもあります。

そんな中で「馬(ウマ)」とか「梅(ウメ)」の話を思い出して、そういえば疑問のまま放置してたなぁと思い、そこそこ面白いテーマでありつつ内容もある程度でまとまるだろうと見通しを立てて、記事を書いてみたんですが、この有様でした。

次はもっと軽めの記事にしたいです。

参考文献

和文

  • 河野六郎(1995) 「亀井孝著『Chinese Borrowing in Prehistoric Japanese』」『一橋論叢』 34(6) 809-816
  • 日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部 (編) (2000)『日本国語大辞典第二版』小学館
  • 沼本克明(2014)『帰納と演繹とのはざまに揺れ動く字音仮名遣いを論ず』東京:汲古書院

欧文

  • Baxter, William H. (1992) A handbook of Old Chinese phonology. Berlin and New York: Mouton de Gruyter.
  • Benedict, Paul K. (1972) Sino-Tibetan: A Conspectus. Contributing editor: James A. Matisoff. Cambridge: Cambridge University Press.
  • Kamei, Takashi (1954) Chinese borrowings in prehistoric Japanese. Tokyo: Yoshikawa Kōbunkan.
  • Karlgren, Bemhard (1926) Philology and ancient China. Oslo: H.Aschehoug.
  • Matisoff, James A (2003) Handbook of Proto-Tibet-Burman  : system and philosophy of Sino-Tibetan reconstruction. Berkeley : University of California Press
  • Miyake, Marc H. (1997) Pre-Sino-Korean and Pre-Sino-Japanese: Reexamining an Old Problem from a Modern Perspective. In: Ho-min Sohn and John Haig Japanese/Korean Linguistics, 6:179–211. Center for the Study of Language and Information (CSLI), Stanford University.
  • Schuessler, Axel (2009) Minimal Old Chinese and Later Han Chinese: A Companion to Grammata Serica Recensa. Honolulu: University of Hawai’i Press.
  • Shen, Zhongwei (2020) A phonological history of Chinese. New York : Cambridge University Press.